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小さな香り歳時記 10「晩夏」

イラストレーターでエッセイストの平野えり子さんのコラム「小さな香り歳時記」。
四季のある日本の暮らしの中で、ふと感じる季節、ふと漂ってくる香りを綴っていただきます。(偶数月更新)
第十回目は「晩夏」です。




お盆は、やはり月遅れでするのが気分だ。
八月の十三日に迎え火を焚いて、お盆の間はゆっくり過ごし、十六日に送り火を焚いて仏さんを送る。
この時期は、世の中も夏休みモードで全体しずか。お盆をするのにちょうどよい。

簡単にすませるといっても、お盆の仕度はそれなりにあれこれある。
盆棚に盆花、お供えも用意しなくては。
盆提灯のはいった箱を出してきて、組み立てるのにもひと騒ぎ。
真菰筵は盆棚と玄関口用に二枚、火焚き用の苧殼は適当な長さに切って、茄子の牛ときゅうりの馬の脚用にもとっておかなくては。
蓮の葉っぱも忘れずにお花屋さんに頼んでおこう。と、夏のいちばん暑いときに、忙しいことこの上ない。

それでもこの忙しさが嫌でないのが、お盆の不思議ないいところ。
このお盆にも、仏さんが来てくれるんだ、というほんのりしたうれしさが、用事の多さを苦にさせない。
ちゃんと間違わないでうちまでたどり着けるかな。

ビュンと俊足で来られるように、きゅうりの馬はうまく作ろう。脚を長めに、カッコよく。
とうもろこしの房を尻尾にして。玄関口に真菰筵を敷いて、その上に馬と牛を置く。
馬は家の方に向けて、牛は仏さんの帰り道の乗り物なので、反対に向けて。

盆棚も作って提灯もつけて、準備万端整ったところでいよいよ迎え火を焚く。
焙烙を出して、その中で苧殼に火をつける。
一年ぶりの迎え火の匂い。
煙がたくさん出ると、これも道しるべにしてね、と思う。

この迎え火をロウソクに移して手持ち提灯につけ、お墓参りへ行くのがお盆の本道。
とはいえ我が家のお墓は歩いて行ける距離になく、電車に乗って駅を三つ四つ越えなければならない。
提灯に灯をともしてお盆のお墓参りへ行くのは、夢とあきらめるしかないか。
それとも、一時間ほどかけて歩いて参る?


絵・文 : 平野えり子

1961年、静岡県生まれ、横浜育ち。
イラストレーター、エッセイスト。
山歩きや旅、暮らしについてのイラストとエッセイの作品を多数発表。
www.yes-hhh.website

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