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小さな香り歳時記 6「晩秋」

今年から始まりましたコラム「小さな香り歳時記」
四季のある日本の暮らしの中で、ふと感じる季節、ふと漂ってくる香りを
イラストレーターでエッセイストの平野えり子さんに綴っていただきます。(奇数月更新)
第六回目は「晩秋」です。


木の葉がほとんど落ちた晩秋の林は、恰好のハンティングワールド。
ハンティングといっても動物を猟るわけではない。
枯れ草、枯れ枝のささやかなハントだ。

山の家の裏にある林は、下草の手入れをほとんどしていない放置された場所。
こういう場所には、目的の「獲物」が数多い。

長靴を履いて、空っぽの紙袋と小さなハサミを持って、いざ出陣。

林にはいると、枯れ草が地面を覆っていて、
いちいち足を高く上げないと進めないほどだ。

カサコソ、バリバリ。
歩を進めるたびに、枯れ葉や枯れ枝を踏む乾いた音がする。

胸躍る、秘密の散策。
まわりに人は誰もいない。
聞こえてくるのは小鳥の声だけ。

雑木は葉を落としているので、林床は日溜まりであたたかい。

見上げると、高い木の幹にからみついたアケビの蔓。
乾いたアケビの実がぶら下がっているのが見える。
アケビの蔓は頑丈で見栄えがいいけれど、
太すぎて堅すぎて、扱いが大変。
軟弱ハンターには手に負えない、上級者向きのカテゴリーだ。

アケビはあきらめて、足元に目を移そう。

お、すぐそこに丈の低いオケラの花殻。
オケラの花は、咲いているときも枯れているような風情で実に地味だけれど、
今は本気で乾いている。
リンドウの花も、完全に水分が抜けてカラカラになっていて、美しい。

少し広くなった日当りのいいところには、
野バラの実がたくさん。

ハンターの血が燃える。
はさみを取り出して、少しずつもらう。

鋭いトゲが下向きの鈎状になっているので、
ちょっとさわるとすぐ刺さる。
トゲとの格闘で、痛いいたいと言いながらも夢中でハサミを使っていたら、
指も手のひらも甲もプチ流血。

それでもハントはやめられない。

黄金色のヘクソカズラの実もいい感じだ。
枯れたススキや低木の枝に無軌道に絡み付いている蔓を、
小さな実がこぼれないように、そっと、
でも大胆に引っぱっていく。

おお、これは大漁だ。
だいぶ紙袋が満杯になってきたぞ。

枯れた蔓草についたきれいな実には、とにかく目がないのだ。
サルトリイバラ、スイカズラにツルウメモドキ。
どれもクルリと丸めてリースにするといい感じ。
まずは持って帰って絵を描かなくちゃ。

ふくらんではいるものの、空っぽのように軽い紙袋を下げて、意気揚々と家に帰る。
袋の中は収獲でいっぱい、わたしの胸もいっぱいだ。
土手を降りて戻って来たら、風が下の畑から焚き火の匂いを運んできた。

ああ、これこそ秋の夕暮れの懐かしきしるしだ。


絵・文 : 平野えり子

1961年、静岡県生まれ、横浜育ち。
イラストレーター、エッセイスト。
山歩きや旅、暮らしについてのイラストとエッセイの作品を多数発表。
www.yes-hhh.website

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