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小さな香り歳時記 1「新春」

今年から始まりましたコラム「小さな香り歳時記」
四季のある日本の暮らしの中で、ふと感じる季節、ふと香ってくる香りを
イラストレーターでエッセイストの平野えり子さんに綴っていただきます。(奇数月更新予定)
第一回目は「新春」です。


こどもの頃からお正月が好きだった。

元日の朝は目が覚めるとたいてい快晴で、それだけでも高揚した。
昨日までは掃除やお飾り、おせちづくりで家中がてんてこ舞いしていたのに、
一晩明けるとすがすがしい新年になっている。
あたりも静かで空気が澄んで、どこかゆったりとしている様子。

「お正月になったんだ」と喜んで布団から飛び出していくと、
いつになく両親は和服姿で、母は白い割烹着など着て台所で忙しそうだ。
家の中はさっぱりと清められ、きれいなお花が活けられている。
いつもは朝どんどん会社へ行く父も、のんびり分厚い新聞などめくっている。
これではこどもがハイになっても仕方がない。

お重や盃をお膳に運ぶのを手伝いながら、漂ってくるのは母の作るお雑煮の匂い。
おすましに鶏肉と牛蒡の香りが
「ああ、本当にお正月がきたんだな」
と思わせてくれる。感激ひとしお。

「お餅いくつ?」というやりとりもまた、お正月ならでは。
お雑煮に使うもみ海苔と鰹節を、いそいそと手伝って豆鉢に盛った。
お雑煮は大好物なのに、今もなんとなく普段作らずにいるのは、
この感激をお正月にとっておきたいという思いからかもしれない。
そうそうみだりに年中お雑煮を食べてはならぬ。などと思ったりして。

お膳にすべてが並んだら、家族四人揃って盃を掲げ、
「あけましておめでとうございます」。
この瞬間、わたくしの「お正月ハイ」は最高潮に達する。
お正月って本当にいいな。
あとはゆっくりとおせちを一品ずつ食べ進む。

時はたって、今は一人のお正月。
それでも小さな鏡餅を飾り、おせちを作ってお雑煮を祝う。
二日には書き初めも。初夢のために宝船の絵も描くぞ。

ちょっと寂しくはあるけれど、いままでのお正月で味わった、
幸福感のおつりがたっぷりあるから、なんのなんの大丈夫なのだ。


絵・文 : 平野えり子

1961年、静岡県生まれ、横浜育ち。
イラストレーター、エッセイスト。
山歩きや旅、暮らしについてのイラストとエッセイの作品を多数発表。
www.yes-hhh.website

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